特ダネって何?

おしごと年鑑 「知る」「学ぶ」「楽しむ」をかなえるお仕事 2023年度
株式会社朝日新聞社

特ダネって聞いたことあるかな? どこよりも速く世の中に発信する大きなニュースのことだよ。どんなものか、優れた報道に贈られる新聞協会賞を2年連続で受賞している朝日新聞社に聞きました。

  • 新聞社の仕事
  • 取材する仕事
  • 情報を扱う仕事

記者の取材で明らかにならなければ、埋もれていたままの事実のことだよ。特ダネは社会にとって大切なことなんだ。

世の中に大切な特ダネが新聞に載るまで、どうなっているのだろう?
取材の過程をのぞいてみよう!

情報をつかむ

情報をつかむ

情報がきっかけになる。警察や政治・行政など情報を持つ人々のもとに通い、取材を重ねるうちに情報を得ることもあれば、ふだんの生活で感じた疑問が特ダネにつながることもある。共通するのは、小さな疑問や変化を見逃さない「アンテナ」だよ。

調べる

調べる

情報を得ても、すぐには書けない。特に不正にかかわることは、その仕組みや関連する法律などを調べ、関係者の証言を得ることも必要だ。複雑で社会的に影響の大きな話になるときは、取材班をつくって、より多角的な視点でスピーディーに調査・取材することも多いよ。

裏付けをとる

裏付けをとる

最後に裏付け(確かな証拠)をとる必要がある。たとえば組織の不正であれば、責任者に調べた情報を伝えて、質問したり、言い分を聞いたりする。「ここまで調べられているなら」と全容を話すこともあれば、反論されることもある。

2021年12月15日付朝日新聞朝刊の1面を飾った実際の特ダネ記事

2021年12月15日付朝日新聞朝刊の1面を飾った実際の特ダネ記事

ガラポン

地道な取材が実る瞬間だポン!

大切なのはチームワーク

朝日新聞社の統計不正問題取材班は、国土交通省が「基幹統計」のデータをゆがめていた不正を突き止め、報道して、2022年度の新聞協会賞を受賞しました。公務員たちは、先輩から長く引き継がれていたデータの無断書き換えが不正なことだと気づいた後も、見つからないように隠していました。特ダネをどうやって追ったのか、取材班代表の伊藤嘉孝記者に聞きました。

記者

伊藤嘉孝記者。東京本社編集局編集委員

統計は、私たちが暮らす社会の状態を知るためのもので、人間に例えれば健康診断のデータです。間違っていたら、私たちも、国も、将来に向けた判断を誤ってしまうかもしれない。過去の歴史をデータから正しく知れなくなる。そんな大切な国の統計で、今回の不正は起きていました。国の職員だけでなく、都道府県の職員も関わっていました。記者たちは全国各地で職員から話を聞き、統計に詳しい大学教授らにも協力してもらい、専門的な分析も重ねました。1人でできるような取材ではなく、チームワークが欠かせませんでした。半年がかりの難しい取材でしたが、チーム全員が「不正を放ってはおけない」と粘り強く取り組み、報じることができました。

クリップ

国末憲人記者の取材記

ウクライナ侵攻の現場から

2022年2月、ウクライナに隣国のロシア軍が侵攻し、目を覆いたくなる光景が新聞やテレビ、インターネット上で次々と報じられています。この戦争で何が起き、いま現地の人々はどのように生活しているのか。ロシア軍による侵攻以前から、ウクライナに足を運んで取材してきた国末記者にリポートしてもらいました(写真も)。

地図
終わりの見えない侵攻

2022年2月24日、ロシア軍が隣国ウクライナに侵攻しました。ウクライナ側は国を挙げて抵抗し、激しい戦闘は1年以上経っても終わる気配を見せません。
この戦争は、三つの意味で歴史に刻まれる出来事となるでしょう。一つは、軍事的な規模や世界に与えるインパクトが、第2次世界大戦後で最大のものとなりかねないほど大きいからです。二つ目に、あまりにあからさまな侵略戦争であり、世界が長年かけて築いてきたルールを壊しかねないからです。三つ目は、無抵抗の市民に対する誘拐(ゆうかい)や拷問(ごうもん)、虐殺(ぎゃくさつ)など、人間の尊厳を傷つける振る舞いが、特にロシア軍側に目立つことです。

砲撃で真っ二つになりかけたボロジャンカのマンション

砲撃で真っ二つになりかけたボロジャンカのマンション=2022年4月10日

学校も破壊 オンライン授業に

ロシア軍はこのほか、ウクライナ全土に対してミサイルやドローンによる攻撃も続けており、多くの施設や住居が破壊されました。学校も例外ではなく、4月23日現在で、被害を受けた教育施設は3198校におよび、このうち286校が完全に破壊されました。
たとえば、首都キーウ近郊のホストメリ市立第1学校モスティシェン分校は、2022年2~3月に近くで起きた激しい戦闘に巻き込まれ、校舎が半壊しました。児童約70人はオンライン授業を余儀なくされています。
一方で、この校舎は地元のボランティアらが再建に取り組み、修復が進んでいます。ウクライナでは、この戦争を機に各地で若者たちのボランティア活動が盛んになり、破壊された施設の再建や修理に携わるほか、戦闘の激しい場所から住民を避難させたり、食料や飲料水を配ったりと、活発に動き回っています。悲惨な場面が多く報じられる戦争の、もう一つの側面でもあるでしょう。

 再建に取り組むボランティアの男性

ホストメリ市立第1学校モスティシェン分校と
再建に取り組むボランティアの男性=2022年9月14日

戦争の実情伝え 次世代の平和へ

SNS(エスエヌエス)の発達によって、スマートフォンや監視カメラの映像が瞬時に世界に広がるのも、この戦争の特徴です。一方で、フェイクニュースや偽の動画も出回るだけに、実際に現地を訪れ、人々の話を直接聞く記者の営みが欠かせません。
それは、危険を伴う任務です。実際、12月には私たちが滞在するキーウのホテルがロシア軍のミサイル攻撃を受けました。私自身は無事救出されましたが、同僚が負傷しました。それでもなお、続ける価値がある仕事だと思います。この戦争の実情を広く伝え、記録に残すことは、次の世代の平和を築くために不可欠だと思うからです。

ミサイル攻撃で大破したアルファヴィートホテル

ミサイル攻撃で大破したアルファヴィートホテル=2022年12月31日

記者

国末憲人記者。ミサイルが被弾したショッピングモールで=朝日新聞映像報道部・竹花徹朗氏撮影