ステージを見ながら機械を操作しているあのひと、何してる?

2025.07.02 あのひと何してる?

照明スタッフがステージの照明を操作している画像

舞台照明スタッフ

演劇やコンサート、ショーなどのイベント会場で、暗いステージが一気に明るくなったり、曲に合わせて照明の色や明るさ・動きが変わったりするのを見るとわくわくするよね。光と闇の力でステージを印象的に仕上げるのが、舞台照明スタッフの仕事だよ。写真は、東京都千代田区の日本武道館で行われた吉川晃司さんのライブの本番前の様子。「調光卓(ちょうこうたく)」という機械でステージの照明を操作しているよ。(写真提供/ライティングビッグワン株式会社 撮影/小川峻毅 撮影地は東京都千代田区)

光の色や動きを工夫して、観客を劇や音楽の世界に引き込む


照明には様々な効果があります。演劇なら、ストーリーに合わせて時間帯や天候・季節、登場人物の感情などを表現できます。夕暮れの場面でオレンジ色の光を、悲しい場面で青っぽい光をあてるのはその一例です。コンサートやライブでは曲に合わせて照明の色や強さ・動きを変えてお客さんの気持ちを盛り上げます。このように、照明は演劇や音楽の世界にお客さんを引き込む役割を担っています。

照明スタッフが調光卓を操作している画像

コンピューターが内蔵された「調光卓」で照明を操作する。調光卓は、照明の色・ズーム・ストロボなどの情報をプログラムし記憶させることが可能。ボタンを押すと再生でき、ステージの印象ががらりと変わる様子は圧巻(福岡市博多区、伊藤恵子撮影)

照明スタッフの作業は、ステージ全体の取りまとめや、演出の計画への参加、調光卓のプログラミング、機材の維持管理やトラブル解決など様々あり、準備段階からチームで分担して進めます。まずは照明器具を手動で操作し、特定の人物に光を当てる「ピンスポット」で経験を積み、より責任のある仕事を任せられるようになっていきます。


音楽ライブを例に挙げると、早い場合は開催日の半年前から準備に取りかかります。「新曲のイメージに合わせて」「自然の中で歌っているような雰囲気で」「ニューヨークの摩天楼(まてんろう)のイメージで」といったミュージシャンの希望を聞き、舞台装置の内容や構成をチームで話し合います。

照明スタッフが足場を組んでいる画像

ライブ当日の様子。「イントレ」と呼ばれる足場に約30キロの照明機材をつり下げているところ。危険を伴う高所での作業のため、ヘルメットが欠かせない(福岡市博多区、伊藤恵子撮影)

内容や構成が決まったら、ステージにどのように照明器具を設置するのかを考えます。現地に足を運び、安全性を確認しながらセットを組むのに必要な鉄骨の本数や荷物を運ぶトラックの台数、照明機材をつり下げる方法などを決めます。ステージの平面図に、照明機材の種類や配置、角度などの情報を書き込んだ「仕込み図」を作成して、照明スタッフ全員で共有。この仕込み図が舞台準備や片付けの際に役立ちます。


照明の演出を考えるのも、照明スタッフの大事な仕事です。ミュージシャンの登場からフィナーレまでお客さんを飽きさせない、変化に富んだ演出を考え、シミュレーター上の機材でプログラムを組む作業は、照明スタッフのセンスが問われます。ゲネプロ(本番と同じ状況で行うリハーサル)では、ミュージシャンのパフォーマンスに合わせてプログラムを動かし、うまくいかないところを見つけては調整します。


そしてライブ当日。スタッフは早朝から会場に入って機材などを運び入れ、準備をします。本番では進行に合わせて調光卓の操作などをチームで連携して行い、ステージを彩ります。

ステージの画像

大きな会場ではLEDと電池を内蔵したリストバンドやペンライトの光と舞台の照明を連動させる、客席参加型の演出も人気。光が客席の側に投げかけられると、ステージの迫力に包み込まれる(東京都千代田区、小川峻毅撮影)

照明スタッフは早朝から深夜までの作業や、高い場所での作業があるなど、体力的に大変な面もありますが、魅力的なステージを作る重要な役割を果たしています。仕事の醍醐味(だいごみ)は、お客さんに強いインパクトを与えられること。


例えば、ステージ上のミュージシャンの背後から強い光を当てると、ミュージシャンの顔は影になり、お客さんからは見えなくなります。「ミュージシャンの姿を早く見たい」とお客さんがじりじりしてきたタイミングを見計らい、正面から一気に光を当てます。すると、ミュージシャンの姿が浮き上がり、客席から大きな歓声が上がります。その光景を目の当たりにすると、言葉では言い表せないくらい感動すると言います。

どうしたら舞台照明スタッフになれるの?


専門学校や大学で電気や照明について学んで入社する人が多いですが、知識や資格がなくても舞台照明の事業を行う会社に入り、仕事を通じて経験を積むことができます。場面にふさわしい演出をするためには、高い感性が求められます。照明スタッフは、メリハリを意識し、ときには意外性のある演出で驚かせながらも、共感と納得を得られる照明を作り上げていきます。

協力/ライティングビッグワン株式会社

取材・文/伊藤恵子