親の与えた環境が、子どもの職業に影響する理由

2019.08.29 おしごと映画

しごとについての質問

「仕事をしている親の姿を見て、『跡を継ごうかな』って思うけど、これって単純過ぎますか?」(14歳・男子)

<答えてくれる人>中山治美(なかやまはるみ)さん

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

最も近い距離にある大人の仕事を見ていて思ったんですね


『山懐に抱かれて』
シネマスコーレほか全国順次公開中
©テレビ岩手

『キツツキと雨 』(通常版)
発売元・販売元:株式会社KADOKAWA
価格:DVD 4700円(税別)

 

単純、最高じゃないですか。
だって「もうかりそうじゃん」とか「モテるかも」なんていう不純な動機なしの、
本心から湧き出た感情ですもの。
それに、親の跡を継ぎたいと思うのはあなただけではありません。
岩手県で酪農を営む吉塚一家に24年間密着したドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』を見てください。一家は5男2女の大家族。嫁いだ女子2人は別として、男子4人は酪農関係の仕事に就き、高校生の5男もまもなく酪農実習に出るというから、“親の背を見て子は育つ”ということわざは真実です。
子どもたちは小さい頃から、大自然の中で牛たちと戯れながら、一家総出で働くのが当たり前の環境で育っています。仕事が終われば、これまた一家そろっての食事です。
家屋は豪華とはいえず、料理だって質素です。
当たり前ですが、どんな仕事も楽しいことばかりではありません。
本作でも成長した子と父が、目指す酪農の方向性の違いから、意見をぶつけ合うシーンもあります。
それでもここには家族の笑顔という何よりの宝と、豊かな時間が流れています。
子どもたちは成長して外の世界も見ますが、だからこそ一層、この暮らしの得難さと、
両親がいかにして自分たちを育ててくれたのかが身に染みて分かり、また戻ってくるのでしょう。
あなたも同様に、両親を尊敬しているから「跡を継ぎたい」という感情が芽生えたのですよね? その考えに到るまでの時間や、親への思いが分かるから、そもそも誰もあなたの決意を単純だなんて思いませんよ。
ちなみに親には自分の気持ちを伝えましたか?
正直なところ、親子はなかなか本音で語り合えないものですよね。
でも他人になら言える。
そんな人間の心理を、巧みに表現した映画があります。
小栗旬と役所広司共演の『キツツキと雨』です。
新人監督・幸一(小栗)は、ある山村にゾンビ映画の撮影でやってきます。
でも現場をうまく取り仕切ることができず、村から脱走を試みたこともあります。
手を差し伸べたのは、堅物の木こり・岸(役所)。
岸もまた、幸一と同年代の息子がいるのですが、父子関係がどうもうまくいかないという悩みを抱えていました。
映画の後半に温泉施設で遭遇した幸一と岸は、胸の内を明かし合います。
岸 「幸一君はよ、どうして映画なんかやろうと思ったの?」
幸一「親父がビデオカメラを買ってきて、最初は運動会とかに使っていたんですけど、だんだん誰にも使われなくなって。で、まぁ、俺が遊びで使い始めて。そんな感じです」
岸 「じゃ、お父さんに感謝だな」
幸一「いや、親父はきっと後悔しています。うち、山形で旅館やっていて。俺、長男だし」
岸「後悔なんかしとらんわ。自分の買ってきたカメラが、息子の人生を変えたんやがな。うれしくて、しょーがないやろうなぁ」
岸の言葉を借りて、あなたに伝えます。
自分たちが与えた環境が、息子の将来を決めたんやがな。
親はうれしくて、しょーがないやろうなぁ。