おしごとはくぶつかん

おしごとシアター«第5回»

おしごとシアター 第5回

しごとについての質問

好きなことを仕事にするには、今どんなことを具体的にすればいいの?

(16歳・女子)

答えてくれる人
中山なかやま 治美はるみ さん
スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。
世界に視野を広げましょう。自分の中にある感性や、意志を引き出すために。

質問者は、すでになりたい職業があるのな?

なかなか将来が見えにくくなっている今、夢を持つと人生の張りが違いますよね。
日常でも「好きな人のためにキレイになろう」とか、「好きな歌手のコンサートに行きたいからアルバイトを頑張ろう」とか、“好き”という感情は行動を起こす原動力になりますものね。

ただ今何をすべきかは、職種によって多少異なるかと思います。

2014年に劇場公開された映画『夢は牛のお医者さん』は、小学3年生の時に学校で牛の飼育をしたことがきっかけとなって獣医になった女性の26年間のドキュメンタリーです。努力と初心を貫いた意思の堅さも重要ですが、目標は明確です。獣医系学部を持つ大学に進学し、獣医師国家試験に合格して免許を取得して獣医師になっていきます。

ここで問題となるのは、技術のみならず感性や運までもが問われる場合もあるアーティスト系の職業でしょうか。

例えば歌手です。

ドキュメンタリー映画『ソニータ』(2015)の主人公ソニータは、音楽が好きでラッパーになりたいと思っています。

しかし彼女を取り巻く環境はとても厳しい。

故郷は戦火の続くアフガニスタンで、危険から逃れるためにイランにやって来ました。イランはイスラム教の戒律にのっとって社会生活が営まれており、女性が公の場で歌うことは禁じられています。

そもそもソニータは不法滞在者ですので、いつ母国へ強制送還されてもおかしくはありません。ただ母国へ戻れば、強制結婚が待っています。残念ながらアフガニスタンでの女性の地位は低く、家族にとって女児は早々に嫁がせて相手先から結納金を得るための“商品”のような扱い。国際問題にもなっている“児童婚”と称されるものです。16歳になったソニータにも、一度も会ったことのない男性との結婚話が浮上しました。

何としても歌手になりたいソニータは、強行手段としてミュージックビデオを作成しYou Tubeにアップしました。曲名は「売られる花嫁」。児童婚に対する怒りや嘆きを訴えた楽曲は大きな話題となり、彼女の人生は大きく好転していきます。自分の人生をどのように見つめ、日々の暮らしを大切に営んでいるか。そんな当たり前のこと、彼女の曲や人生は教えてくれます。

何をすべきか分からない時は、旅に出てみるのも一策です。

『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)は、キューバ革命の指導者であるチェ・ゲバラ(1928―1967)が若き時代に友人と南米大陸を旅した記録を映画化したものです。ゲバラは裕福な家庭で育った医学生。社会人になる前にちょっと冒険旅行でも……という、おぼっちゃまの気まぐれだったようです。

しかし行く先々で目にするもの、出会った人々が、彼の意識を変えていきます。政治的信念のために土地を奪われたインディオの夫婦。高度な文明を持ちながら、侵略してきたスペインによって滅ぼされたインカ帝国のむなしさ。貧しい人に、医療と教育が満足に行き届かない理不尽な社会。

中でもリマで訪れたハンセン病患者の療養所に衝撃を受けます。日本でもかつてそうだったように、ハンセン病は恐ろしい病として差別や偏見の対象となり隔離されてきました。ゲバラが訪れた場所がまさにそうで、ハンセン病を専門に学んでいたにもかかわらず、知らなかった現実に直面することになりました。このことは、のちの彼の革命運動に大きな影響を与えたと言われてますが、やはり視野を広げると、自分たちが今までいかに狭い世界で生きてきたかに気付かされるものです。

ちなみにゲバラはこの時、約7カ月間も放浪しています。貧乏旅行だったようですが、怖いもの知らずで、体力も時間もある学生時代だからこそできる特権ですね。

  • 『ソニータ』

    公開:
    アミューあつぎ映画.comシネマにて3月24日(土)~4月13日(金)公開 順次全国公開中
    宇都宮ヒカリ座
    2018年3月31日(土)~4月13日(金)
    URL:
    http://unitedpeople.jp/sonita/
  • 『モーターサイクル・ダイアリーズ』

    発売元:
    KADOKAWA
    販売元:
    アミューズソフト
    価格:
    Blu-ray 2500円(税別)

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