おしごとはくぶつかん

そのみちのプロにく わたしのしごとみち«第12回»

義足ぎそくエンジニア 遠藤えんどう けん さん

プロフィール
遠藤えんどう けん さん
1978年生まれ。2003年慶応義塾大学大学院機械工学科修士課程修了後、ロボットの研究開発を行う。05年アメリカ、マサチューセッツ工科大学に留学し、ロボット技術を使った義足研究を始める。12年に帰国後、ソニーコンピュータサイエンス研究所に所属。14年から競技用義足の開発を始め、株式会社Xiborg(サイボーグ) を仲間と立ち上げ、代表取締役に就任する。全ての人が日常生活を営みやすくするためのロボット義足の開発と、東京パラリンピック大会に向けた競技用義足の改良を同時に行っている。
義足エンジニアとはどういう仕事ですか? 遠藤さんが作っている義足はどのような義足なのですか?
日常用に設計したロボット義足の試作品。モーターが入った足首部分(写真提供/遠藤謙さん) 陸上競技用義足。上のソケット部分に足をはめ込み装着する
(上)日常用に設計したロボット義足の試作品。モーターが入った足首部分(写真提供/遠藤謙さん) (下)陸上競技用義足。上のソケット部分に足をはめ込み装着する

義足は足の関節部分にあたる継ぎ手、足部、アダプターといったいくつかのパーツに分かれてできています。義足エンジニアはその一つひとつのパーツを作るのが仕事です。実際に患者さんに義足をつけるのは、義肢装具士と呼ばれる人たちで、これは医療行為として行われています。

僕が現在作っている義足は2種類あって、ひとつはロボット技術を使った義足です。これはモーターなど電気の力を使って日常の動作をしやすくする義足です。足首や、膝の部分に機械を入れて、人の体の自然な動きに合わせて、関連する動作をロボットが助けるという義足を目指して試作を続けています。

もう一つは、荷重によるしなり、反発力などを使って走る速さを高める義足です。これは「板バネ」と呼ばれる、スキー板を曲げたような形。電気は使わず、軽くて強いカーボンファイバーでできています。陸上競技の選手が使用するための義足です。

現在4名のトップアスリートが使用してくれていて、2020年の東京パラリンピック大会を目標に、いかに速く走れるか、形などに改良を重ねています。

日常用に設計したロボット義足の試作品。モーターが入った足首部分(写真提供/遠藤謙さん) 陸上競技用義足。上のソケット部分に足をはめ込み装着する
(上)日常用に設計したロボット義足の試作品。モーターが入った足首部分(写真提供/遠藤謙さん) (下)陸上競技用義足。上のソケット部分に足をはめ込み装着する
遠藤さんはロボットの研究者でもありますね。なぜ義足にロボットの技術を生かしたのですか?
留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん) 留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん)
留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん)

高校時代のバスケット部の後輩が、2003年に骨肉腫という病気になって、足を失ってしまいました。当時、僕はロボットの研究をしていましたが、従来の義足では日常生活に不便なことが多いと聞いて、「テクノロジーがこれだけ進歩しているのに、義足に進化がないのはなぜだ。義足にロボット技術を使いたい」と思いました。そこでアメリカに留学をして、ヒュー・ハー教授という両足に義足を使っている先生のロボット研究チームに入り、義足の研究をはじめました。

ヒューマノイドの二足歩行ロボットは、本来人間の動きを再現するものです。人間が二本足で階段を上ろうと思ったら、まず階段を目で見て、足を上げて、もう一方の足を上げて、足を伸ばすということをごく自然に行いますね。ロボットは、この一連の動きをコンピューターでプログラミングされていて行うわけです。

義足にも、階段を見て(これは人間がやる)、足を上げて、もう一方の足のバランスやタイミングを計りながら、足を伸ばすということをさせたいんです。つまり義足の関節部分にコンピューターとセンサーとアクチュエータを内蔵することによって、足の失った機能をロボット技術で補完しましょうということ。

人間の足は角度をつけて力を入れたり着地面を蹴り上げたり、とても複雑です。だから留学中は、人間の動きをもっと深く知りたくて、生理学や解剖学を猛勉強しました。製品化ですか? まだ数年かかるでしょうね。

留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん) 留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん)
留学中の遠藤さん(手前)。研究室にて、日常生活で使う全身の動きを測定する。ヒュー・ハー教授と共に(写真提供/遠藤謙さん)
もう一つ、全く違うタイプの義足、「板バネ」をめぐって会社を設立されたそうですね。どういうきっかけだったのですか?
新豊洲Brilliaランニングスタジアム(東京都・豊洲)の「ギソクの図書館」には、自分に合った競技用義足を試せるように、他社の板バネも並ぶ
新豊洲Brilliaランニングスタジアム(東京都・豊洲)の「ギソクの図書館」には、自分に合った競技用義足を試せるように、他社の板バネも並ぶ

留学中に、オスカー・ピストリウスという南アフリカ共和国の義足の陸上選手に出会いました。彼は2008年北京オリンピックに出場予定だったのですが、義足を使うことが“ずるい”という議論が国際陸上競技連盟で巻き起こり、裁判になったんです。その時、競技用の義足にものすごく可能性を感じました。

義足を履いて走るのがずるいということは、義足があれば、「障がいを持つ人が健常者を超える可能性がある」ということ。それはまさに未来だ! と感じ、帰国後、義足の研究開発・製作・販売を行うXiborgという会社を仲間と立ち上げました。

当時はまだ次のオリンピック、パラリンピックの開催地が東京に決まっていなかったので、競技用義足にあまり関心が集まらず、資金を集めるのが大変でした。でもいくつかの企業が面白いことをやっているな、と関心を持ってスポンサーになってくれたおかげで開発が進められています。

東京・新豊洲に、誰もが走れる屋内型ランニングスタジアムがあるのですが、ここに競技用義足のラボも併設しました。競技用義足はどうしても値段が高くなってしまう。そこでクラウドファンディングで費用を集め、大人も子どもも競技用義足を気軽に試着、試走できる「ギソクの図書館」も作りました。

新豊洲Brilliaランニングスタジアム(東京都・豊洲)の「ギソクの図書館」には、自分に合った競技用義足を試せるように、他社の板バネも並ぶ
新豊洲Brilliaランニングスタジアム(東京都・豊洲)の「ギソクの図書館」には、自分に合った競技用義足を試せるように、他社の板バネも並ぶ
競技用義足はどんなふうに作られるのですか? どんな点にやりがいを感じていますか?
板バネとソケットをつなぐ接合パーツを調整する遠藤さん。一つの義足を作るのに、膨大な手作業が続く
板バネとソケットをつなぐ接合パーツを調整する遠藤さん。一つの義足を作るのに、膨大な手作業が続く

競技用義足はひとつ作るのに3カ月くらいかかります。コンピューターで、走るときにどれくらいの力が出るのか、どの方向に力が出るのか、形状をデータ化し設計するため、3カ月の半分以上はパソコンの前に座ってカチャカチャ計算をしていますね(笑)。設計通りに金属で板バネの型を作るのがまた時間とお金がかかる作業で。それをカーボン素材に精通した会社に持ち込み、何度も改良を加えながら製品化します。

F1のチームはドライバー、テクニック、最新テクノロジーが力を合わせて速さを競いますね。競技用義足も、アスリートの「速くなりたい」という目的を助けるものですからワクワクしますよ。板バネの形によって選手の走り方が変わるし、その逆もあるので、選手に最適な義足を作っていく面白さもあります。ウサイン・ボルトより速いタイムが出たらすごいことだと思いませんか?

板バネとソケットをつなぐ接合パーツを調整する遠藤さん。一つの義足を作るのに、膨大な手作業が続く
板バネとソケットをつなぐ接合パーツを調整する遠藤さん。一つの義足を作るのに、膨大な手作業が続く
義足を通して、テクノロジーが社会の意識を変える予感がします。その第一歩が競技用義足ということですね。
義足ランナー・池田樹生選手の練習を見守る為末大さん(左)と遠藤さん(写真/朝日新聞)
義足ランナー・池田樹生選手の練習を見守る為末大さん(左)と遠藤さん(写真/朝日新聞)

そうですね。ロボット義足と競技用義足の共通点は、「人の機能が失われたところにテクノロジーを使うことで、普通の人と変わらない、あるいはそれ以上の動きができるようになる」ということです。

数年前までは足がないことは悲劇でしかなく、差別される世の中でした。だけどメガネを考えてみてください。数十年前は目が悪い人はとても不自由して、分厚いメガネをかけていじめられたりコンプレックスを持ったりもした。けれど今は、レンズを圧縮する技術でおしゃれなメガネが増え、むしろカッコイイという印象にもなっている。コンタクトレンズやレーシックというオプションも増えた。それと同じことが義足でも、少しずつ起こっていくはずなんです。

障害がある人への価値観も変わるはず。誰もが多様性を受け入れて、それを認めていく世の中へ必ず変わっていくと、僕は思っています。

義足ランナー・池田樹生選手の練習を見守る為末大さん(左)と遠藤さん(写真/朝日新聞)
義足ランナー・池田樹生選手の練習を見守る為末大さん(左)と遠藤さん(写真/朝日新聞)
将来、ロボット技術を使って世の中のためになりたいと思う子どもたちに、アドバイスはありますか?
最近読んだのは「意識の在り方」に関する本。宗教、哲学……、さまざまな分野の本に目を通す
最近読んだのは「意識の在り方」に関する本。宗教、哲学……、さまざまな分野の本に目を通す

僕はいつも、知識や関心を「広げる行為」と「深掘りする行為」の両方で大切にしています。算数が好きでしたが、虫も大好きで小学生の頃はセミを集めたり、ひと夏で何匹セミを捕まえられるかを記録したこともあります(笑)。これは深掘りする行為ですね。

一方で自分にしかできないことや、好きなことを探すためには、いろいろな経験を広める行為も大切です。僕は今もできるだけ知らない人と会ったり、本を読んだりしていろいろな考え方に触れています。自分の研究とつながるものが必ずあるからです。

小・中学生だと学校の勉強なんてイヤイヤやっているかもしれませんが、そうした知識が将来必ず役立ちます。だから今、必要な勉強を少しでも楽しく感じられるようにやっていくこと。先生方も子どもたちが楽しめるような授業をぜひ考えてもらいたいですね。「これだ!」という好きなものに出会えたら、そこからいろいろなことを深めていけばいいのだと思います。

最近読んだのは「意識の在り方」に関する本。宗教、哲学……、さまざまな分野の本に目を通す
最近読んだのは「意識の在り方」に関する本。宗教、哲学……、さまざまな分野の本に目を通す
取材・文/玉居子泰子 写真/村上宗一郎 

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